2008年10月06日

長い長いトンネルを抜けても

 私は震えていた。勝ちをはっきりと意識していた。目の前にあるのは必勝の局面。優勢とか勝勢とか、そんな次元ではない。ものすごい駒得で、相手の攻め駒はほとんどない。反則や時間切れをやらかさない限り、負けようがない局面だ。
 いつの間にか、他の対局は全て終わり、感想戦をしているところすらなかった。ギャラリーもほとんどいない。相手チームのメンバーは数人いたが、ウエスタンのチームメイトは誰もいないようだ。おそらく、チームの勝ちはとっくに決まっているのだろう。
 少し孤独感を覚えた。チームメイト達は機嫌良く雑談をしているに違いないが、自分だけ戦いの場に取り残されている。早く私も彼らと合流したいのに、相手はなかなか投了してくれない。
 形勢がはっきりしてから、既に50手ほど指しただろうか。自分が焦っていること、集中力が落ちていることには、とっくに気付いていた。そして、これまでの連敗は、自分に対する信頼も奪っていた。だから余計に震えた。また負けるんじゃないか。常識的に考えてまずあり得ないことだが、私はそれを強く恐れた。
 相手玉に詰みが見えた。詰みそうな局面はこれまで何度もあったが、絶対の自信はなかったので詰ましにいかなかった。しかし今度は簡単だ。龍を切って桂を打てばあとは並べ詰みだ。桂を打ったところで、ようやく相手が投了。とにかくホッとした。

 ここまで、長い長いトンネルだった。互角以上の形勢で終盤に入りながら勝ちきれない、そんな将棋が続いた。24や一般大会はそうでもないのに、社団戦だけ勝てなかった。この日を迎えた時点で個人成績は1勝4敗で、勝った1局は必敗の局面で相手の時間が切れたものだった。
 原因はわかっていた。心が乱れているのだ。負けが続いているから、早く勝ちたいと思ってしまう。じっとプレッシャーをかけたり、相手の手を殺したり、30秒将棋になるとそんな手が指せなくなる。しかし、わかっていても、対局になると思うように事は運ばなかった。
 正直に言って、社団戦で将棋を指すことが苦痛になりかけていた。チームの役に立たず、自分自身が充実感を味わえず、楽しむことすらできない。これでは社団戦に出る意味がないように思えた。団体戦引退も考えるほど、私は追い詰められていた。
 当日になっても、思いは変わらなかった。割り切って考えることなどできなかった。進退をかけた戦いに臨む、そんな心積もりだった。

 ところが、この日の1局目で、私はまたも優勢だった将棋を落とした。中盤での積極策が功を奏したのだが、その後相手の飛車を追い回したのがヤブヘビで、その飛車を急所に転回され逆転してしまった。
 言うまでもなく、私はかなり落ち込んだ。このまま次の対局に臨んでもまた逆転負けを食らうような気がした。だから、主将には次局外れたいと言った。
 主将の回答は「外しても良いが残りの2局も出られない可能性が高い」というものだった。どうしようか少し迷ったが、結局次も出ることにする。この1局だけで終わるわけにはいかない。しかし、またチームに迷惑をかけるのはないかという不安は、消えることはなかった。

 かくして迎えた本日の2局目、この将棋は作戦があまりうまくいかず、自信のない分かれだったが、相手が強引に手を作ってきたため、それを咎めて優勢になった。この時点ではカウンターで勝つことも考えてはいたのだが、相手が持ち駒の銀を受けに使ってきたので、全駒にすると決めた。
 あとはとにかく安全運転を心掛けた。「詰みより全駒」という、どこかで聞いた言葉を思い出し、石橋を3度叩いても渡らないような指し方をした。某氏は後で「せたさんはフルボッコにしてた」というような表現をしていたが、私にはそんなつもりはなかった。単に負けるのが怖く、絶対負けないように指しただけだった。

 あとの2局は、前述のとおり抜け番である。機嫌を良くしてあとは高みの見物といきたいところだが、私が抜けるとなぜかチームは苦戦する。3試合目は3-4の惜敗だった。私の個人成績が2勝5敗なのに、出た試合のチームの結果は6勝1敗、出なかった試合は1勝3敗だ。相手関係もあるだろうが、不思議なものである。
 4試合目は安心して見ていられる展開だったので、大熱戦だったウエスタンBの試合を主に見ていた。結果はウエスタンAが7-0の完封勝ちを収めたものの、ウエスタンBは惜しくも3-4で敗れた。応援しているとチームが負けるというのは、厄病神になったようで、あまり気分の良いものではない。

 さて、ウエスタンAの順位は現在4位。2位以上で自動昇級という目もないわけではなく、入替戦経由での昇級は自力である。しかし、昇級の可能性を高めるためには、10月の団体個人戦で勝点を稼いでおきたいところだ。
 しかし、ウエスタンAは関西在住者が多く、朝日アマ名人戦近畿地区大会と日程が重なったことから、団体個人戦はメンバーがかなり手薄になる見込みである。
 そういうわけで今度は、自分が期待されていることをひしひしと感じている。団体個人戦は同じくらいのレーティングの選手同士で手合いが付けられるので、ここまで不振の私は相手関係が楽になっているはずである。したがって、ここは私にとって負けられぬ戦いである。
 1つ白星は得たが、まだチームに貢献したという実感は全くない。足を引っ張った分の埋め合わせとしては、勝数1はあまりにも小さい。団体個人戦が不本意な結果だったら、再び引退の2文字が頭をよぎるだろう。
 しかし、団体戦に未練がないわけではない。できることなら、来年は1部で戦いたいと思っている。だが、今の自分にその資格があるとは思えない。だから勝つしかない。自信を取り戻し、チームメイトにも認められる必要がある。
 ゆえに、私はまだまだ戦う。内容ではなく結果のみを求め、勝つことだけを考えて戦う所存である。
posted by せた at 00:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 将棋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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